音楽室と化学室と美術室とPC室の融合部屋 所謂自由室

趣味と気分で適当に色々やります.なんかあるとたまに更新します.

楕円積分から楕円関数と楕円曲線までのメモ

以前似たような記事を書いていたのですが,少し気に入らなかったので書き直します.

なんか楕円曲線とかの話が気になったので調べたことをまとめます.

ざっくりとした結論

楕円積分

有理関数
R(x,s)
について,3次か4次の関数\varphi(x)を用いた
R(x,\sqrt{\varphi(x)})
について考えると,それらは楕円積分か初等関数に帰着する.
楕円積分は解を解析的に求めることはできない.

楕円関数

円の弧長を用いると\sin等の三角関数逆関数ができることに習い,楕円の弧長から似たような関数を考えた.
ヤコビの楕円関数{\rm sn}x等がそれに該当するが,三角関数のような周期関数とは少し変わり,周期が\mathbb{C}上に2つ存在することがわかった.
周期が2つ存在するため二重周期関数と言われ,2つの周期で表現できる平行四辺形(基本周期平行四辺形という)で\mathbb{C}上全てを表現できる.
一般に有理型*1の二重周期関数を楕円関数と言ったりする.

楕円曲線

楕円関数の性質を模倣し,ワイエルシュトラス\wp関数*2を作った.
その\wp関数を用いると,微分方程式
(\wp'(z))^2 = (\wp)^3 + a\wp + b
が得られ,これを\wp'(z) = y\wp(z) = xと置換したもの
y^2 = x^3 + ax + b
楕円曲線という.
これは\wp関数の加法定理と照らし合わせ,楕円曲線の2点とその2点から得られる1点(点は無限遠点を含む)についてアーベル群を成すことがわかっている.


楕円積分

楕円の弧長と楕円積分

楕円
x = a\sin{\theta}
y = b\cos{\theta}
の弧長を計算する.今回,角度\thetaはy軸の正の箇所から時計回りにとることにする.
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これはパラメタ\theta0 \sim \varphiと変化させた弧長ならば
\int_{0}^{\varphi}\sqrt{a^2\cos^2\theta + b^2\sin^2\theta}d\theta
とでき,\cos^2\theta = 1-\sin^2\thetaを用いると
a\int_{0}^{\varphi}\sqrt{1 - \frac{a^2 - b^2}{a^2}\sin^2\theta}d\theta
になり,k = \sqrt{\frac{a^2 - b^2}{a^2}}とおくと
a\int_{0}^{\varphi}\sqrt{1 - k^2\sin^2\theta}d\theta
になるが,これ以上計算のしようはない.

ここで係数aを除いた部分をパラメタ\varphikを用いて
E(\varphi,k) = \int_{0}^{\varphi}\sqrt{1 - k^2\sin^2\theta}d\theta
と定義し,これを第二種楕円積分とする.
ちなみに
E(k) = E(\frac{\pi}{2},k)
を第二種完全楕円積分とよび,楕円の弧長は4aE(k)と計算ができる.


この被積分関数を逆数にしたもの
F(\varphi,k) = \int_{0}^{\varphi}\frac{1}{\sqrt{1 - k^2\sin^2\theta}}d\theta
第一種楕円積分と呼び,
K(k) = F(\frac{\pi}{2},k)
を第一種完全楕円積分と呼ぶ.*3ここでF(k)ではなくK(k)と置くのが習わしらしい.・・・よくわからん
これはレムニスケート
r^2 = a^2\cos2\theta
と関係がある.
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レムニスケートの弧長1

レムニスケートの式
r^2 = a^2\cos2\theta
極座標なので,直交座標に直すと
(x^2 + y^2)^2 = a^2(x^2 - y^2)
になる.
ここで
x^2 + y^2 = a^2\cos^2\phi
x^2 - y^2 = a^2\cos^4\phi
と置換すると
a^4\cos^4\phi = a^2\cdot a^2\cos^4\phi
になり都合が良い.


これをx,yそれぞれについて解くと
x = a\cos{\phi}\sqrt{1-\frac{1}{2}\sin^2\phi}
y = \frac{a}{\sqrt{2}}\cos\phi\sin\phi
になり,微分すると
dx = -a\sin\phi\sqrt{1-\frac{1}{2}\sin^2\phi} - \frac{a}{2}\cos^2\phi\sin\phi\left(1-\frac{1}{2}\sin^2\phi\right)^{-\frac{1}{2}}d\phi
より
dx = \frac{a\sin\phi}{\sqrt{1-\frac{1}{2}\sin^2\phi}}\left(-\frac{3}{2} + \sin^2\phi\right)d\phi

dy = \frac{a}{\sqrt{2}}\left(1-2\sin^2\phi\right)d\phi
が得られるので
\sqrt{\left(\frac{dx}{d\phi}\right)^2 + \left(\frac{dy}{d\phi}\right)^2} = \frac{a}{\sqrt{2}}\frac{d\phi}{\sqrt{1-\frac{1}{2}\sin^2\phi}}
つまり,レムニスケートの周の長さは
\frac{a}{\sqrt{2}}\int_{0}^{\varphi}\frac{d\phi}{\sqrt{1-\frac{1}{2}\sin^2\phi}}
と表せられるので
\frac{a}{\sqrt{2}}F(\varphi,\frac{1}{\sqrt{2}})
になるので,弧長全体は
\frac{4a}{\sqrt{2}}K(\frac{1}{\sqrt{2}})
になる.

レムニスケートの弧長2

次は簡単の為にa=1としてやる.
このレムニスケートの弧長は,素直に計算しても
r^2 = \cos{(2\theta)}
についてr0\to 1と大きくしたときの積分でも第一象限の弧長は求めることができて,極座標積分
\int_{0}^{1}\sqrt{1+\left(r\frac{d\theta}{dr}\right)^2}dr
から計算してやるとよい.
rdr = -\sin{(2\theta)}d\theta
から
r\frac{d\theta}{dr} = -\frac{r^2}{\sin{(2\theta)}} = -\frac{r^2}{\sqrt{1-r^4}}
になるので
\int_{0}^{1}\frac{dr}{\sqrt{1-r^4}}
なんて綺麗な積分の式が得られる.

この弧長は
\varpi = 2\int_{0}^{1}\frac{dr}{\sqrt{1-r^4}} = \sqrt{2}K\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\right)
と表記するとレムニスケート周率なんて呼ばれ,円周率
\pi = 2\int_{0}^{1}\frac{dr}{\sqrt{1-r^2}}
とよく似た式になる.*4

楕円関数

楕円関数の登場

例えば
\int_{0}^{x} \frac{dt}{\sqrt{1-t^2}} = \sin^{-1}{x}
になることから,レムニスケートについての関数も作れそうな気がする.

そこでレムニスケートの弧長についての関数
u(x) = \int_{0}^{x}\frac{dr}{\sqrt{1-r^4}}
を定義してみると,u(-x) = -u(x)は容易にわかるので定義域は-1 \leq x \leq 1とできる.
次にu(x)逆関数s(x)を定義する.
もちろんs(u(x)) = xs(-u(x)) = s(u(-x)) = -xであることからs(-x) = -s(x)がわかる.

次に定義域を拡張していくが,第一象限と第四象限ではrを正の長さ,第二象限と第三象限ではrを負の長さと定義する.
するとs(-x) = -s(x)及び
\lim_{l\to 0}s(\frac{\varpi}{2} + l) \to 1
\lim_{l\to 0}s(-\frac{\varpi}{2} + l) \to -1
を満たすので自然になり,またレムニスケートをひとまわりする弧長は2\varpiであり,これがそのまま周期になる.
簡単な公式としてはs(x) = s(\varpi - x)がすぐわかる.

また三角関数と同じようにc(x) = s(\varpi - x)が定義できる.

これらをレムニスケートからの関数ということで,レムニスケート関数と呼ぶことにする.

このレムニスケート関数s(x)は加法定理
s(x + y) = \frac{s(x)c(y) + c(x)s(y)}{1-s(x)s(y)c(x)c(y)}c(x + y) = \frac{c(x)c(y) - s(x)s(y)}{1+s(x)s(y)c(x)c(y)}
を満たす.

これは第一種楕円積分
F(\varphi,k) = \int_{0}^{\varphi}\frac{1}{\sqrt{1 - k^2\sin^2\theta}}d\theta
によって定義されるヤコビの楕円関数{\rm sn}x{\rm cn}x{\rm dn}xの加法定理から得られるもので,
ヤコビの楕円関数自体はパラメタkによって性質が\sin{x}だったり\tanh{x}だったりするもので,推測が行いやすい.*5

レムニスケート関数の加法定理を証明するにはx+y = t = {\rm const}と固定してxの関数にしてやり
s(x) = \frac{s(x)c(t-x) + c(x)s(t-x)}{1-s(x)s(t-x)c(x)c(t-x)}c(x) = \frac{c(x)c(t-x) - s(x)s(t-x)}{1+s(x)s(t-x)c(x)c(t-x)}
xをグリグリ動かしても結果が変わらない,定数であることを示せば良く,
\frac{ds}{dx} = 0\frac{dc}{dx} = 0
の結果を示すことができれば終わる.

また示す過程でc(x) = \sqrt{\frac{1-s^2(x)}{1+s^2(x)}}の関係式も得られる.

レムニスケート関数を複素関数

レムニスケート関数の複素関数版について考えるにあたって
u(x) = \int_{0}^{x}\frac{dr}{\sqrt{1-r^4}}
について考えてみたい.

被積分関数(1+x)^\alphaテイラー展開
(1+x)^\alpha = 1 + \frac{\alpha}{1!}x + \frac{\alpha(\alpha - 1)}{2!}x^2 + \cdots + \frac{\alpha(\alpha - 1)\cdots(\alpha - n + 1)}{n!}x^n + \cdots
について
\alpha = -\frac{1}{2}
x = -r^4
なので
u(x) = \int_0^{x}(1-r^4)^{-\frac{1}{2}} = \int_{0}^{x}\left(1 + \frac{1}{2}r^4 + \frac{1\cdot 3}{2\cdot 4}r^8 + \cdots + \frac{1\cdot 3\cdots (2n-1)}{2\cdot 4\cdots 2n}r^{4n} + \cdots\right)dr
と展開でき,項別積分を行うことによって
u(x) = x + \sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{4k+1}\cdot\frac{1\cdot 3\cdots (2k-1)}{2\cdot 4\cdots 2k}x^{4k+1}
が得られるが,u(x) = \sum_{k=0}^{\infty}a_k x^{4k+1}なので,虚数を乗じたixを代入すると
u(ix) = iu(x)に変形ができてしまうので
s(ix) = is(x)
c(ix) = \frac{1}{c(x)}
がわかる.

これで加法定理を使えば
s(x + iy) = \frac{s(x)c(iy) + c(x)s(iy)}{1-s(x)s(iy)c(x)c(iy)} = \frac{s(x)+ic(x)c(y)s(y)}{c(y)-s(x)s(y)c(x)}
c(x + iy) = \frac{c(x)c(iy) - s(x)s(iy)}{1+s(x)s(iy)c(x)c(iy)} = \frac{c(x) - is(x)s(y)c(y)}{c(y)+is(x)s(y)c(x)}
が得られ,xyはそれぞれ独立してscの引数になっていて
s(z + 2\varpi + 2i\varpi) = s(z)
c(z + 2\varpi + 2i\varpi) = c(z)
が成立してしまうので,実軸方向と虚軸方向の2方向に周期を持つ二重周期関数ができあがってしまう.
このように,第一種楕円積分から関数を作ると二重周期関数ができてしまったことにより,有理型*6の二重周期関数を楕円関数とも言ったりする.

二重周期関数の性質

\frac{\omega_1}{\omega_2}\notin\mathbb{R}となる周期\omega_1\omega_2の2つを持つ有理型関数を楕円関数という.
複素数平面上に平行四辺形型の周期を持ち,最小の周期の平行四辺形を基本周期平行四辺形という.
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平行四辺形自体は向かい合う辺で繋がっているため,複素トーラス上の関数とも言える.

有理型関数という前提があるため,リウヴィルの定理*7から基本周期平行四辺形のどこかに極を持っているか,定数関数のいずれかになる.
しかし基本周期平行四辺形の周囲をぐるっと周るように積分を行うと,対面の辺同士で打ち消すため,積分結果は0になるが,1位の極1つのみの場合は留数定理から積分結果は0にならない.
つまり,定数関数でない楕円関数は極を2つ以上持つことになる.(k位の極はk個と数える)

ワイエルシュトラス\wp関数

極が2つ存在して2つ周期があるというのなら,\frac{\omega_1}{\omega_2}\notin\mathbb{R}となる周期\omega_1\omega_2の2つを使った関数を作ってみたいが,
周期を片方1にし,\tau = \frac{\omega_1}{\omega_2}としたほうが変数が1つ減る分わかりやすい.
そうして簡単に作れそうな二重周期関数というと
\wp(z) = \frac{1}{z^2} + \sum_{(n,m)\neq (0,0)}\left(\frac{1}{\left(z + n + m\tau\right)^2} - \frac{1}{\left(n + m\tau\right)^2}\right)
と定義した関数を作ることができる.
ここで分母が2乗されているのは,しない場合収束しないということと,\frac{1}{\left(n + m\tau\right)^2}を引いているのも収束の兼ね合いの問題.

これを項別積分することで
\wp'(z) = -2\sum \frac{1}{\left(z + n + m\tau\right)^3}
が得られ,\wp'(z)1\tauの周期を持つことで
\wp(z+1) = \wp(z) + \alpha
\wp(z+\tau) = \wp(z) + \beta
であることがわかり,\wpが偶関数であることから
\wp\left(\frac{1}{2}\right) = \wp\left(-\frac{1}{2}\right) + \alpha
\wp\left(\frac{\tau}{2}\right) = \wp\left(-\frac{\tau}{2}\right) + \beta
とすることで定数項は\alpha = \beta = 0であることがわかるので,\wp(z+1) =\wp(z)\wp(z+\tau) = \wp(z)の2つの周期を持った関数が作れたことが示せる.
f:id:Aryuaryuaryuryu:20200315143044p:plainf:id:Aryuaryuaryuryu:20200315143107p:plainf:id:Aryuaryuaryuryu:20200315143128p:plainf:id:Aryuaryuaryuryu:20200315143147p:plain

\wp関数の展開

\wp(z) - \frac{1}{z^2} = \sum_{(n,m)\neq (0,0)}\left(\frac{1}{\left(z + n + m\tau\right)^2} - \frac{1}{\left(n + m\tau\right)^2}\right) = \sum_{(n,m)\neq (0,0)}\left(\frac{1}{\left(z - n - m\tau\right)^2} - \frac{1}{\left(n + m\tau\right)^2}\right)
についてn + m\tau = \Omegaとおいて
\wp(z) - \frac{1}{z^2} = \sum_{\Omega}\frac{1}{\Omega^2}\left(\frac{1}{\left(1 + \frac{z}{\Omega}\right)^2} - 1\right) = \sum_{\Omega}\frac{1}{\Omega^2}\left(\frac{1}{\left(1 - \frac{z}{\Omega}\right)^2} - 1\right)
とする.
\left(\frac{1}{1-x}\right)' = (1+x +x^2 + x^3 +\cdots )'
を計算すると
\frac{1}{(1-x)^2} = 1 +2x + 3x^2 + 4x^3 + \cdots
になるので
\wp(z) - \frac{1}{z^2} = \sum_{\Omega}\frac{1}{\Omega^2}\left(2\left(\frac{z}{\Omega}\right) + 3\left(\frac{z}{\Omega}\right)^2 + 4\left(\frac{z}{\Omega}\right)^3 + \cdots \right)
と展開すると
\wp(z) - \frac{1}{z^2} = \sum_{\Omega}\frac{2}{\Omega^3}z + \sum_{\Omega}\frac{3}{\Omega^4}z^2 + \sum_{\Omega}\frac{4}{\Omega^5}z^3 + \cdots
になる.

n\in\mathbb{N}のとき
\sum\Omega^{2n+1} = 0
であることが容易に説明できるから
\wp(z) = \frac{1}{z^2} + \sum_{\Omega}\frac{3}{\Omega^4}z^2 + \sum_{\Omega}\frac{5}{\Omega^6}z^4 + \sum_{\Omega}\frac{7}{\Omega^8}z^6 + \cdots
が得られる.

楕円曲線

楕円曲線の誕生

ワイエルシュトラス関数の展開について係数を簡略化して書いたもの
\wp(z) = z^{-2} + 3a_2z^2 + 5a_4z^4 + \cdots
について両辺を微分すると
\wp'(z) = -\frac{2}{z^3} + 6a_2z + 20a_4z^3 + \cdots
になる.

この\wp(z)\wp'(z)の極,\frac{1}{z^2}-\frac{2}{z^3}の項を消してみたいので
(\wp(z))^3(\wp'(z))^2について最初の三項を取り出して計算してみると

(\wp'(z))^2 = 4z^{-6} - 24a_2z^{-2} - 80a_4 + \cdots
(\wp(z))^3 = z^{-6} + 9a_2z^{-2} + 15a_4 + \cdots
になるので
(\wp'(z))^2 = 4z^{-6} - 24a_2z^{-2} - 80a_4 + \cdots
4(\wp(z))^3 = 4z^{-6} + 36a_2z^{-2} + 60a_4 + \cdots
としてやると
(\wp'(z))^2 - 4(\wp(z))^3 = -60a_2z^{-2} -140a_4 + \cdots
とちょうどよく2位の極が浮き出る形になる.

そこで
60a_2\wp(z) = 60a_2z^{-2} + 180a_2^2z^2 + 300a_2a_4z^4 + \cdots
を足すと右辺は適当な関数gが存在して
(\wp'(z))^2 - 4(\wp(z))^3 + 60a_2\wp(z) = -140a_4 + z^2g(z) \cdots
と書ける.定数項を左辺に移すと
(\wp'(z))^2 - 4(\wp(z))^3 + 60a_2\wp(z)  + 140a_4 = z^2g(z) \cdots
になる.

左辺は楕円関数を組み合わせたものだから左辺まるごと極を取り除くことができた周期関数になり,右辺はzの関数になる.
リウヴィルの定理より発散しない整関数は定数関数になり,右辺は原点で0である定数関数なので,右辺は0になる.

こうして式を整理し
(\wp'(z))^2 = 4(\wp(z))^3 - 60a_2\wp(z)  - 140a_4
g_2 = 60a_2
g_3 = 140a_4
と置換すると
(\wp'(z))^2 = 4(\wp(z))^3 - g_2\wp(z)  - g_3
になる.

更に(x,y) = (\wp(z),\wp'(z))と置換してやると
y^2 = 4x^3 - g_2x  - g_3
というみんな大好き楕円曲線の式が出来上がる.
楕円曲線
y^2 = x^3 + ax  + b
と表記されることも多い.
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ペー関数の加法定理

レムニスケート関数のs(x)に加法定理があったように\wpにも加法定理が存在する.
a+b+c \equiv 0 \pmod{\Omega}とすると
\begin{vmatrix}
\wp'(a)&\wp(a)&1\\
\wp'(b)&\wp(b)&1\\
\wp'(c)&\wp(c)&1
\end{vmatrix} = 0
となることを最初に示す.

この流れは,\alpha\wp(z) + \beta = \wp'(z)について考えた後,楕円関数において,基本周期平行四辺形内の零点と極の個数が一緒になること,零点の和と極の点の和は周期を法として合同になることを用いる.


最初に楕円積分は基本周期平行四辺形内部の零点と極の個数が一緒になることを示そう.

偏角の原理

正則関数f(z)において
\frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f'(z)}{f(z)}dz
は零点の個数と極の個数の差になる.

まず偏角の原理から.
正則関数f(z)において
\frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f'(z)}{f(z)}dz
は極の個数と零点の個数の差になることを示す.
\frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f'(z)}{f(z)}dz
について,f(z)\alphaにおいてk位の極・零点を持つとすると,g(\alpha) \neq 0である適切なg(z)を用いて
f(z) = (z-\alpha)^kg(z)
と表すことができるので
f'(z) = k(z-\alpha)^{k-1}g(z) + (z-\alpha)^kg'(z)
になる.
これで
\frac{f'}{f}(z) = \frac{k}{z-\alpha} + \frac{g'}{g}(z)
になるが,g(z)\alphaで0や極にならないので\alphaでは正則で,\frac{f'}{f}\alphaで留数kを持つ一位の極になる.
零点になる場合はkは正,極になる場合はkは負になるので,留数定理から
\frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f'(z)}{f(z)}dz = N_0 - N_\infty
が得られる.N_0積分内部の零点の個数,N_\infty積分内部の極の個数とする.

一般化した偏角の原理

偏角の原理と同様にして一般化した偏角の原理

正則関数f(z)と正則関数h(z)において,積分内部の零点をa,極の点をbとすると
\frac{1}{2\pi i}\oint_C h(z)\frac{f'(z)}{f(z)}dz = \sum_a n(C,a)h(a) - \sum_b n(C,a)h(b)
になる.
ただしn(C,z)z周りの回転数.

が得られる.
hは正則関数でh(z) = c_0 + \sum_{n>0} c_n(z-\alpha)^nと展開できるので
h(z)\frac{f'}{f}(z) = \frac{k}{z-\alpha}\left(c_0 + \sum_{n>0} c_n(z-\alpha)^n\right) + \frac{g'}{g}(z)\left(c_0 + \sum_{n>0} c_n(z-\alpha)^n\right)

h(z)\frac{f'}{f}(z) = \frac{kc_0}{z-\alpha} + \frac{k}{z-\alpha}\left(\sum_{n>0} a_n(z-\alpha)^n\right) + \frac{g'}{g}(z)\left(a_0 + \sum_{n>0} a_n(z-\alpha)^n\right)
になる.
\frac{k}{z-\alpha}\left(\sum_{n>0} a_n(z-\alpha)^n\right) + \frac{g'}{g}(z)\left(a_0 + \sum_{n>0} a_n(z-\alpha)^n\right)
全体は極を持たないので一周するとごっそり消えるので題意を満たす.

零点と極の個数が同じになることを示す

楕円関数は基本周期平行四辺形内の零点と極の個数が一緒になる.

偏角の原理を利用して考える.
\frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f'(z)}{f(z)}dz
基本周期平行四辺形の辺に沿って一周するように積分を行うと,\frac{f'(z)}{f(z)}は楕円関数なので基本周期平行四辺形の互いの辺同士で打ち消し合うので積分結果は0になる.
\frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f'(z)}{f(z)}dz = 0
しかし偏角の原理で
\frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f'(z)}{f(z)}dz = N_0 - N_\infty
が示されているので零点と極の個数は同じという結論が得られる.

零点の和と極の点の和は周期を法として合同になることを示す

零点の和と極の点の和は周期を法として合同

これはどういうことかというと,f(\alpha)=0になる点\alpha_nf(z)の極の点\beta_mの和が周期\Omegaを法として合同になるということ.
\alpha_1+\alpha_2+\cdots+\alpha_n \equiv \beta_1 + \beta_2+\cdots +\beta_m \pmod{\Omega}
周期と合同というのは,二重周期である2つの周期\omega_1\omega_2を使うとa-b = n\omega_1 + m\omega_2になるということ.

これは最初に基本周期平行四辺形の辺を辿って一周する積分
\frac{1}{2\pi i}\oint_C z\frac{f'(z)}{f(z)}dz
について考えてみたい.
これは
\frac{1}{2\pi i}\left(\int_{a}^{a+\omega_1} + \int_{a+\omega_1}^{a+\omega_1+\omega_2} + \int_{a+\omega_1+\omega_2}^{a+\omega_2} + \int_{a+\omega_2}^{a}\right)z\frac{f'(z)}{f(z)}dz
と変形をして,向かい合う辺同士の計算
\frac{1}{2\pi i}\int_{a}^{a+\omega_1}z\frac{f'(z)}{f(z)}dz - \frac{1}{2\pi i}\int_{a+\omega_2}^{a+\omega_1+\omega_2}z\frac{f'(z)}{f(z)}dz
について考えると,w=z+\omega_2と置換して
\frac{1}{2\pi i}\int_{a}^{a+\omega_1}z\frac{f'(z)}{f(z)}dz - \frac{1}{2\pi i}\int_{a}^{a+\omega_1}(w+\omega_2)\frac{f'(w+\omega_2)}{f(w+\omega_2)}dw
と計算でき,\frac{f'(z+\omega_2)}{f(z+\omega_2)} = \frac{f'(z)}{f(z)}なので
-\frac{\omega_2}{2\pi i}\int_{a}^{a+\omega_1}\frac{f'(z)}{f(z)}dz
にでき,これの積分結果は
-\frac{\omega_2}{2\pi i}\left(\log{f(a+\omega_1)} - \log{f(a)}\right)
になる.f(a+\omega_1) = f(a)だが,\log{e^x \cdot e^{i(\theta + 2\pi n)}} = x + i(\theta + 2\pi n)であるため
\log{f(a+\omega_1)} - \log{f(a)} = 2n\pi i \omega_2
になるので
\frac{1}{2\pi i}\int_{a}^{a+\omega_1}z\frac{f'(z)}{f(z)}dz - \frac{1}{2\pi i}\int_{a+\omega_2}^{a+\omega_1+\omega_2}z\frac{f'(z)}{f(z)}dz = n\omega_2
とできる.
これをもう片方の辺の組み合わせでもやると
\frac{1}{2\pi i}\oint_C z\frac{f'(z)}{f(z)}dz = n\omega_1 + m\omega_2
という結果になる.
積分自体は積分経路は一周しているだけなので,一般化した偏角の原理を用いて零点と極の差であることがわかるので題意を満たした.

ワイエルシュトラスの楕円関数の加法定理

これでようやく

a+b+c\pmod{\Omega}とすると
\begin{vmatrix}
\wp'(a)&\wp(a)&1\\
\wp'(b)&\wp(b)&1\\
\wp'(c)&\wp(c)&1
\end{vmatrix} = 0

を示すことができる.
最初にf(z) = -\wp'(z) + \alpha\wp(z) + \betaについて考えるとf(z)は楕円関数になる.
これはz=0\wp'(z)は三位の極,\wp(z)は二位の極なので,f(z)z=0で三位の極になり,基本周期平行四辺形内部に他に極は存在しない.
すると,極と零点の個数は同じなので2つの零点をabとすると
\alpha\wp(a) + \beta = \wp'(a)
\alpha\wp(b) + \beta = \wp'(b)
になる.
もう1つの零点をcとし,極の点は全て原点なので極の点の和は0であることから,零点の和と極の点の和は周期を法として合同になるので
a+b+c \equiv 0 \pmod\Omega
になる.
こうして
\begin{pmatrix}
\wp'(a)&\wp(a)&1\\
\wp'(b)&\wp(b)&1\\
\wp'(c)&\wp(c)&1
\end{pmatrix}が線形従属であることがわかるので\begin{vmatrix}
\wp'(a)&\wp(a)&1\\
\wp'(b)&\wp(b)&1\\
\wp'(c)&\wp(c)&1
\end{vmatrix} = 0
が示せる.

こうして
\alpha\wp(a) + \beta = \wp'(a)
\alpha\wp(b) + \beta = \wp'(b)
\alpha\wp(c) + \beta = \wp'(c)
を満たす3点a+b+c \equiv 0 \pmod\Omegaの存在が確認できた.
ちなみに\wp(z)は偶関数なので\wp(c) = \wp(-a-b) = \wp(a+b)となることを今後利用する.
g(z) = (\alpha\wp(z) + \beta)^2 - (\wp'(z))^2
とするとg(z)の零点はa,b,cの三点になり,
(\wp'(z))^2 = 4(\wp(z))^3 - g_2\wp(z)  - g_3
の関係式を用いると
g(z) = -4\wp^3(z) + \alpha^2\wp^2(z) + \wp(z)(2\alpha\beta - g_2) + (\beta^2 - g_3)
が得られる.
\lambda\mu\nuを解に持つ三次方程式は
(z-\lambda)(z-\mu)(z-\nu) = z^3 - (\lambda+\mu+\nu)z^2 + (\lambda\mu + \lambda\nu + \mu\nu) - \lambda\mu\nu
と展開できる.

ここで解と係数の関係から\frac{\alpha^2}{4} = \lambda+\mu+\nuであり,解は\wp(a)\wp(b)\wp(a+b)なので
\frac{\alpha^2}{4} = \wp(a) + \wp(b) + \wp(a+b)
になる.
あとは\alphaについて解いてやればよくて
\alpha\wp(a) + \beta = \wp'(a)
\alpha\wp(b) + \beta = \wp'(b)
連立方程式から
\alpha = \frac{\wp'(a) - \wp'(b)}{\wp(a) - \wp(b)}
が容易に得られるので
\wp(a+b) = \frac{1}{4}\left(\frac{\wp'(a) - \wp'(b)}{\wp(a) - \wp(b)}\right)^2 - \wp(a) - \wp(b)


これを利用すると
\wp(2z) = \frac{1}{4}\left(\frac{\wp''(z)}{\wp'(z)}\right)^2 - 2\wp(z)
が得られる.これは
\frac{\wp'(a) - \wp'(b)}{\wp(a) - \wp(b)} = \frac{\frac{\wp'(a) - \wp'(b)}{a-b}}{\frac{\wp(a) - \wp(b)}{a-b}}
と注意してb\to aの極限をとってやればよい.

楕円曲線上の加法

楕円曲線
y^2 = x^3 + ax  + b
上の2点P(x_1,y_1)及びQ(x_2,y_2)を通る直線を引き,もう1点と交わる箇所とx軸に対象な点をR(x_3,y_3)と置く.
楕円曲線はx軸に対象な曲線になるのでR楕円曲線上の点になる.
この点R
x_3 = \left(\frac{y_1-y_2}{x_1 - x_2}\right)^2 - x_1 - x_2
-y_3 = \frac{y_1 - y_2}{x_1 - x_2}(x_3-x_1)+y_1
で得られる.

次にワイエルシュトラス\wpの加法定理について比較する.
ワイエルシュトラス\wp自体
(\wp'(z))^2 = 4(\wp(z))^3 - g_2\wp(z)  - g_3
を満たすが,式変形を行い
(\frac{\wp'(z)}{2})^2 = (\wp(z))^3 - \frac{g_2}{4}\wp(z)  - \frac{g_3}{4}
とするとy^2 = x^3 + ax  + bに対応することに注意する.

加法定理は
\wp(a+b) = \frac{1}{4}\left(\frac{\wp'(a) - \wp'(b)}{\wp(a) - \wp(b)}\right)^2 - \wp(a) - \wp(b)
なので,
\wp(a+b) = \left(\frac{\frac{\wp'(a)}{2} - \frac{\wp'(b)}{2}}{\wp(a) - \wp(b)}\right)^2 - \wp(a) - \wp(b)
と変形できるため,
x_3 = \left(\frac{y_1-y_2}{x_1 - x_2}\right)^2 - x_1 - x_2
とダイレクトに関わりがあることがわかり,楕円曲線の2点P(x_1,y_1)及びQ(x_2,y_2)を通る直線を引き,もう1点と交わる箇所とx軸に対象な点をR(x_3,y_3)と置くという動作は交換法則どころか結合法則まで容易に満たすことがわかる.
単位元無限遠\mathcal{O}とし,無限遠点と点[P(x_1,y_1)]を結ぶ直線はx=x_1とする.そしてP(x_1,y_1)の逆元-PP(x_1,-y_1)とすると,この楕円曲線上の作図はアーベル群を成す.
このアーベル群が楕円曲線上の加法になる.
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とりあえずなんとなく今のところ調べたところまでを書き綴りました.

参考文献

楕円関数入門(日本評論社)(戸田 盛和)
保型形式とユニタリ表現(数学書房)(高瀬 幸一)
ブリンストン解析学講義 複素解析 (日本評論社)(エミリアス・M.スタイン,ラミ・シャカルチ)
複素解析現代数学社)(L.V.アールフォルス)
数理科学のための複素関数論(サイエンス社)(畑 政義)
楕円積分と楕円関数 おとぎの国の歩き方(日本評論社)(武部 尚志)

*1:0除算以外に特異点を持たない

*2:読みは『ペー』

*3:ちなみに振り子運動等も第一種楕円積分に関わりがある.

*4:ちなみに円周率もレムニスケート周率も,暗黒通信団が百万桁表を出版している.

*5:ここの流れは日本評論社の楕円関数入門を参照

*6:極(0除算)以外に特異点を持たない

*7:定数関数でない整関数なら無限遠点含むどこかで発散するという定理.テイラー展開から示せる.