音楽室と化学室と美術室とPC室の融合部屋 所謂自由室

趣味と気分で適当に色々やります.なんかあるとたまに更新します.

複素解析のメモ(2)(コーシーの積分公式まで)

前回に引き続き今度は積分から



積分

実関数の積分

高校数学でもおなじみの積分といえば,皆さんご存知の通り,もちろん面積の導出が定義ということから始まります.
高校数学の積分といえば,ある点aからxまでのグラフの面積をF(x)と置く.これをF(x) = \int_a^xf(t)dtと書く.

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面積関数

微小区間にx軸をいくつも区切って,微小区間x \sim \Delta xの内部の関数f(x)の最大値をM,最小値をmと置くと,微小区間の面積F(x+\Delta x) - F(x)
m\Delta x < F(x+\Delta x) - F(x) < M\Delta x
と書けるので
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m < \frac{F(x+\Delta x) - F(x)}{\Delta x} < M
と変形できるので,\Delta x \to 0と極限をとればm\to f(x)M\to f(x)になるので
f(x) < F'(x) < f(x)

こうして面積関数F(x)微分すると面積を描く関数f(x)になることがわかり,積分微分の逆演算になる性質をもっていることが確認できた.

ちなみに積分の式は
\int_\beta^\alpha f(x) dx = \lim_{N\to \infty} \sum_{n=1}^N f(x_n)\Delta x_n
と表記でき,\Delta x_nが等しい時
\int_\beta^\alpha f(x) dx = \lim_{N\to \infty} \sum_{n=1}^N f(\beta + \frac{n}{N}(\beta - \alpha))\frac{\beta - \alpha}{N}
になりますね!

複素関数積分

以上の積分複素関数にもやりたい!
・・・のですが,実関数の積分x軸を底辺にできたのですが,複素関数では変数が1つでもz = x+iyという実質2変数みたいなものなので軸に対応するものがありません.

そこで複素平面上に軸を描画してやります.
C = \{z(t) = x(t) + iy(t)\}
とパラメタtを用いて積分経路を決めてやって
\int_C f(z) dz
というように経路を記述して積分とします.

前回の微分の記事と同じように
f(z) = u(x,y) + iv(x,y)
としてやり,区切った曲線上の点z_nz_n = x_n + iy_nと記述し,\Delta z_n = \Delta z_{n+1} - \Delta z_n = \Delta x_n + i\Delta y_nとする.
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ついでにu_n = u(x_n,y_n)v_n = v(x_n,y_n)と記述する.

この曲線をいくつかに分割し,実積分と同様に
\int_C f(z) dz = \lim_{N\to \infty}\sum_{n=1}^N f(z_n)\Delta z_n
としてやる.
そして
\lim_{N\to \infty}\sum_{n=1}^N f(z_n)\Delta z_n = \sum_{n=1}^N (u_n + iv_n)(\Delta x_n + i\Delta v_n)
と変形し,
\lim_{N\to \infty}\sum_{n=1}^N (u_n\Delta x_n - v_n\Delta y_n) + i\sum_{n=1}^N (u_n\Delta y_n + v_n\Delta x_n)
これの極限を取り,
\int_C (u dx - v dy) + i\int_C (u dy - v dx)
パラメタtを用いてx=x(t) \Leftrightarrow dx = x'(t)dty=y(t)\Leftrightarrow dy = y'(t)dtと置換を行い
\int_\beta^\alpha (u(x(t),y(t)) x'(t) - v(x(t),y(t)) y'(t))dt + i\int_\beta^\alpha (u(x(t),y(t)) y'(t) + v(x(t),y(t)) x'(t))dt
まとめる
\int_\beta^\alpha (u + iv)(x'(t) + iy'(t))dt
最後にu(x(t),y(t))+iv(x(t),y(t)) = f(z(t))x'(t) + iy'(t) = z'(t)なので
\int_C f(z)dz = \int_\beta^\alpha f(z(t))z'(t)dt
という変形が得られる.ただの置換積分の形になった.

積分の性質として,実積分と同様に逆走するとマイナスになる
\int_{-C}f(z)dz = -\int_Cf(z)dz
ことがある.
閉路の積分は反時計回りを正とする.

zのn乗の積分を試してみる

じゃぁ試しにf(z) = (z-\alpha)^n積分を考えてみたい.
ここでの積分は,積分経路を\alphaを中心に半径rで一周する経路,つまりz(t) = \alpha + re^{it}とする.

先程の置換積分を行うように考えると
z'(t) = ire^{it}
f(z(t)) = \left(re^{it}\right)^n = r^ne^{int}
になり,t積分区間0\sim 2\piになる.
\int_C f(z)dz = \int_{0}^{2\pi}f(z(t))z'(t)dt = \int_{0}^{2\pi}r^ne^{int}ire^{it}dt
と変形ができ
ir^{n+1}\int_{0}^{2\pi}e^{it(n+1)}dt
を計算してやればよい.

ここで注意しないといけないのは,n\neq -1n=-1の場合分けが必要で,

最初にn\neq -1のとき
ir^{n+1}\int_{0}^{2\pi}e^{it(n+1)}dt = ir^{n+1}\int_{0}^{2\pi}(\cos{(t(n+1))} + i\sin{(t(n+1))})dt
と変形し
\frac{r^{n+1}}{n+1}\left[i\sin{(t(n+1))} + \cos{(t(n+1))}\right]_0^{2\pi}
計算を行うと
\int_C (z-\alpha)^ndz = 0
なんてそっけない結果が得られてしまう.

次はn=-1の時を考えると
ir^{n+1}\int_{0}^{2\pi}e^{it(n+1)}dt = i\int_{0}^{2\pi}dt
になるので
\int_C (z-\alpha)^ndz =  2\pi i
という結果になる.

この結果は後々留数定理とかいう定理で本領を発揮することになるので要注意.

コーシーの積分定理

せっかく積分は定義できたから,実関数の積分のように何かしら適当な関数が存在して,始点と終点だけで計算できないかなって思いますよね.
そこで,始点と終点だけで計算結果が決まる場合を考えてみましょう.

適当に経路をとって始点\alphaと終点\betaだけで積分結果が決まるなら
\alphaから適当に経路をとって\alphaに戻ってくるなら
\int_\alpha^\alpha f(z)dz = [F(z)]_\alpha^\alpha = 0
となり,一周すると0になるはず.
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しかし先の計算では\int_C \frac{dz}{z-\alpha}\alphaを中心にぐるっと周る経路の積分2\pi iになり0にならなかった.
・・・そう.実積分のようなノリで計算するには何かしら条件が存在必要になってくる.

その条件は積分経路と閉路の内部が正則であるというシンプルな条件であることがコーシーによって示された.
これの証明は色々調べられて,グルサの方法で初等的に示すことができる.

グルサの方法によるコーシーの積分定理の証明

コーシーの積分定理の証明を行う.

コーシーの積分定理
積分経路が閉路であり,経路と閉路の内部が正則ならば積分結果は0になる

複素積分自体,経路をいくつも細かく分割して行った.
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この証明も同様に経路を細かく分割して行うが,基本的に任意の多角形について成り立つことを示せれば良いというイメージで十分.
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多角形の分割

最初の手順として,多角形を適当に対角線を交わらないように引き,複数の三角形に分割する.
三角形の積分を反時計回りに全て行うと,共通する対角線は打ち消し合い,元の多角形の辺のみ結果が残る.
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1つの三角形についてコーシーの積分定理が成り立てば,全ての三角形の積分結果が0なので,元の多角形の結果も0になる.

三角形の各辺の中点を結び,1つの三角形を4つに分割する.
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今回は1回目の三角形の分割なので,元の三角形を\Delta_1,分割後を\Delta_{(1,n)}とする.
\int_{\Delta_1} f(z)dz = \int_{\Delta_{(1,1)}}f(z)dz + \int_{\Delta_{(1,2)}}f(z)dz + \int_{\Delta_{(1,3)}}f(z)dz + \int_{\Delta_{(1,4)}}f(z)dz
ここで\Delta_1 \sim \Delta_4の経路のうち積分結果の一番大きいものを\Delta(1,m)と表記し,
\left|\int_{\Delta_1}f(z)dz\right| = {\rm max}\left(\left|\int_{\Delta_{(1,n)}}f(z)dz\right|\right)
三角不等式
|\alpha + \beta| \leq |\alpha| + |\beta|
を利用すると
\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq 4\left|\int_{\Delta_{(1,n)}}f(z)dz\right|
になる.
この式は
\frac{1}{4}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq \left|\int_{\Delta_{(1,n)}}f(z)dz\right|
としたほうが今後の話の流れがスマートになる.

次に\Delta_{(1,n)}を分割するので\Delta_2 = \Delta_{(1,n)}とし,同様に分割を行い
\frac{1}{4}\left|\int_{\Delta_2} f(z)dz\right| \leq \left|\int_{\Delta_{(2,n)}}f(z)dz\right|
とし,\Delta_3 = \Delta_{(2,n)}として同様に・・・
\frac{1}{4}\left|\int_{\Delta_3} f(z)dz\right| \leq \left|\int_{\Delta_{(3,n)}}f(z)dz\right|
・・・

これを繰り返すとN回の操作では
\frac{1}{4^N}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq \left|\int_{\Delta_{(N,n)}}f(z)dz\right|
になる.

細かくした三角形について

話は変わるが三角形を細かくしていくとまるで点のように小さくなる.
そこでその小さな三角形の内部に1つ点z_0をとり,三角形の周上の適当な点zと比較すると,
\frac{f(z_0) - f(z)}{z_0 - z}
f'(z_0)へと近づいていく.
つまり関数f(z)が正則なら三角形を限りなく小さく分割していくなら,適当な\varepsilon>0に対して
\left|\frac{f(z_0) - f(z)}{z_0 - z} - f'(z_0)\right| < \varepsilon
になる分割数Mが存在する.

この式の両辺に|z-z_0|を乗じると
\left|f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z-z_0)\right| \leq \varepsilon|z-z_0|
になる.
これを細かくしていった末の三角形\Delta_Mに対して積分を行うと
\int_{\Delta_M}\left|f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z-z_0)\right||dz| \leq \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|
とでき,これも三角不等式
\left|\int_C f(z)dz\right| \leq \int_C|f(z)||dz|
から
\left|\int_{\Delta_M}\left(f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z-z_0)\right)dz\right| \leq \int_{\Delta_M}\left|f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z-z_0)\right||dz| \leq \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|
になるので,大小関係としては
\left|\int_{\Delta_M}\left(f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z-z_0)\right)dz\right| \leq \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|
という結果になる.

この積分
\left|\int_{\Delta_M}\left(f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z-z_0)\right)dz\right| \leq \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|
は三角形の周に対してのz積分で,内部のz_0は定数になるので,f(z_0)も定数.

つまり,左辺の積分自体はf(z)積分と,z積分と定数の積分に分けられる.
z積分と定数の積分について三角形の積分を考えることにする.


三角形の積分

三角形の各頂点をz_1z_2z_3とし,z_1の点にz_4の記号も割り当てる.

パラメタは
z(t) = (1-t)z_n + tz_{n+1}
z'(t) = -z_n + z_{n+1}
とすると,0\to 1と変化させるとz_nからz_{n+1}に直線的に移動する.

z_n\to z_{n+1}積分はそれぞれ
z積分
\int_0^1 z(t)z'(t) dt = \frac{1}{2}(z_n^2 - z_{n+1}^2)
定数の積分
\int_0^1 z'(t) dt = \frac{1}{2}(z_n - z_{n+1})
になるので,三角形\Deltaの周上の積分\int_\Delta z dz = 0\int_\Delta dz = 0が導かれる.

コーシーの積分定理の証明終了

以上により
\left|\int_{\Delta_M}\left(f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z-z_0)\right)dz\right| \leq \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|
は左辺の積分f(z_0)f'(z_0)(z-z_0)が消えるので
\left|\int_{\Delta_M}f(z)dz\right| \leq \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|
と変形できる.

\Delta_Mは三角形を非常に細かくしたM回目の三角形で,N回分割した場合
\frac{1}{4^N}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq \left|\int_{\Delta_{(N,n)}}f(z)dz\right|
が成立するので
\frac{1}{4^M}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq \left|\int_{\Delta_M}f(z)dz\right| \leq \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|

つまり
\frac{1}{4^M}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq  \varepsilon\int_{\Delta_M}|z-z_0||dz|

三角形\Delta_Mの内部の点z_0と三角形の辺上のzの距離|z-z_0|は三角形の辺を一周する長さL_Mよりも小さいので
|z-z_0| < L_M
とすると
\frac{1}{4^M}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq  \varepsilon L_M\int_{\Delta_M}|dz|
になり,\int_{\Delta_M}|dz|は三角形の辺の長さでの積分なのでこちらは
\int_{\Delta_M}|dz| = L_M
つまり
\frac{1}{4^M}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq  \varepsilon L_M^2
ここで三角形の辺の中点で分割していったので,分割前の元の三角形の周をLとすると中点連結定理から
L_M = \frac{L}{2^M}
になり,
\frac{1}{4^M}\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq  \varepsilon \frac{L}{4^M}

これでようやく
\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| \leq  \varepsilon L
という式に帰着し,\varepsilonは任意なので
\left|\int_{\Delta_1} f(z)dz\right| = 0
が得られる.

これでようやく

コーシーの積分定理
積分経路が閉路であり,経路と閉路の内部が正則ならば積分結果は0になる

ことを示すことができた.

原始関数を用いた積分

さてこれでようやく実積分のように原始関数が存在する場合について考えることができる.
正則の範囲内であればどのような経路をとっても積分結果は変わらないことがわかった.


関数F(z)を適当な積分の始点を\alphaとおいて
F(z) = \int_{\alpha}^z f(\zeta)d\zeta
と定義する.
微小区間zからz + \Delta z積分
F(z+\Delta z) - F(z) = \int_z^{z + \Delta z} f(\zeta)d\zeta
ここで始点zを用いて
F(z+\Delta z) - F(z) = \int_z^{z + \Delta z} f(z)d\zeta + \int_z^{z + \Delta z} \left(f(\zeta) - f(z)\right)d\zeta
とすると
F(z+\Delta z) - F(z) = \Delta zf(z) + \int_z^{z + \Delta z} \left(f(\zeta) - f(z)\right)d\zeta
なので
\frac{F(z+\Delta z) - F(z)}{\Delta z} = f(z) + \frac{1}{\Delta z}\int_z^{z + \Delta z} \left(f(\zeta) - f(z)\right)d\zeta
になる.あとは右辺の積分が0になってくれると嬉しい.

そこでおなじみの三角不等式で
\left|\frac{1}{\Delta z}\int_z^{z + \Delta z} \left(f(\zeta) - f(z)\right)d\zeta\right| \leq \frac{1}{\left|\Delta z\right|}\int_z^{z + \Delta z} \left|f(\zeta) - f(z)\right|\left|d\zeta\right|
ここで|z_0|\to 0となるとき,|f(\zeta) - f(z)| < \varepsilonになるので
\left|\frac{1}{\Delta z}\int_z^{z + \Delta z} \left(f(\zeta) - f(z)\right)d\zeta\right| \leq \frac{1}{\left|\Delta z\right|}\int_z^{z + \Delta z} \left|f(\zeta) - f(z)\right|\left|d\zeta\right| < \varepsilon
これで
\lim_{\Delta z \to 0}\frac{F(z+\Delta z) - F(z)}{\Delta z} = F'(z) = f(z)
になることが示せた.

こうしてようやくf(z)の正則範囲内に経路を取る場合,実積分と同様に原始関数が存在すれば実積分と同様に端点のみで計算すれば積分の計算ができることが示せた.


コーシーの積分定理の応用

コーシーの積分定理は範囲内が正則なら閉路の積分は全て0になるなんていう便利な定理だった.
じゃぁ閉路の内部に正則ではない部分が存在すると?・・・というのも一考する必要がある.

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正則でない部分を含む積分

\int_C f(z)dz
実は正則でない部分を含む閉路の積分は,閉路を含んでいればどんなに閉路を変形しても良い.
それは閉路を正則でない部分を通るように2つの閉路に分割し,分割した線を正則でない部分を避けるように変形すればよい.

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正則でない部分を避けるように閉路を分ける

\int_{C_1}f(z)dz + \int_{C_2}f(z)dz = 0
すると2つの積分の分割した箇所は打ち消し合い

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分割した線の部分は打ち消し合う

\int_{C_1}f(z)dz + \int_{C_1}f(z)dz = 0 = \int_{C}f(z)dz - \int_{C_3}f(z)dz
正則でない部分の周囲の経路C_3積分と,元の経路C積分は等しいことがわかる.

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2つの閉路の積分はこうなる

\therefore \int_{C}f(z)dz = \int_{C_3}f(z)dz


同様にして,内部に除外したい点が複数存在する場合も,除外した点の周囲の積分の総和
\int_Cf(z)dz = \sum\int_{C_n}f(z)dz
になる.

コーシーの積分定理の条件をゆるくする

コーシーの積分定理が成り立つのは閉路内部が正則の場合のみだが,\lim_{z\to \alpha}(z-\alpha)f(z)dz = 0となる点を経路に含み,残りの部分は正則である場合を考える.
この時経路Cをコーシーの積分定理の応用の要領で\alphaを中心とする半径rの円に変形する.
次に
|f(z)| < \frac{\varepsilon}{|z-\alpha|}
と変形し
\left|\int_C f(z)dz\right| \leq \int_{C'}|f(z)||dz| < \varepsilon\int_{C'}\frac{1}{|z-\alpha|}|dz|
なので
\left|\int_C f(z)dz\right|  < \varepsilon\int_{C'}\frac{1}{|z-\alpha|}|dz|


積分経路の長さは2\pi rで,|z-\alpha| = rなので
\left|\int_C f(z)dz\right|< \varepsilon\int_{C'}\frac{1}{|z-\alpha|}|dz| = \varepsilon\int_{C'}\frac{1}{r}|dz| = 2\pi\varepsilon

これで

閉経路の内部が
\lim_{z\to \alpha}(z-\alpha)f(z)dz = 0
である点を含み,残りは正則である関数f(z)積分\int_C f(z)dz = 0になる

ということが示せた.

コーシーの積分公式と無限回微分できる話

コーシーの積分公式

最後にコーシーの積分公式の説明をしてこの記事を終わる.

正則関数fを用いてF(\zeta) = \frac{f(\zeta) - f(a)}{\zeta - a}という関数Fを定義する.

これは\lim_{\zeta \to a}F(\zeta)(\zeta - a) = f(a) - f(a) = 0となり,先程の緩くなる条件を満たすので
\int_CF(\zeta) = \frac{f(\zeta) - f(a)}{\zeta - a}d\zeta = 0
これを変形し
\int_C\frac{f(\zeta)}{\zeta - a} = \int_C \frac{f(a)}{\zeta - a} = f(a)\cdot 2\pi i
ここでa=zと置換すると
f(z) = \frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{\zeta - z}
という公式が得られる.
これをコーシーの積分公式という.

コーシーの積分公式を使った計算

コーシーの積分公式を用いた計算の例としては,\frac{e^z}{z}に対し,単位円上をグルっと廻る積分
\int_{|z|}\frac{e^z}{z}dz
を計算するなら
\frac{1}{2\pi i}\int_|z|\frac{2\pi ie^z}{z-0}dz
とし
f(z) = \int_C\frac{f(\zeta)}{\zeta - z}
と比較すると,f(z) = 2\pi ie^zとすると
f(0) = 2\pi i = \int_C\frac{2\pi ie^z}{z-0}dz
となり,積分結果は2\pi iになることがわかる.

無限回微分ができる話

コーシーの積分公式
f(z) = \frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{\zeta - z}d\zeta
に対して両辺をz微分してみたい.このとき右辺の積分微分の順序交換ができるとすると
f'(z) = \frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^2}d\zeta
f'(z) = \frac{2}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^3}d\zeta
f''(z) = \frac{2\cdot 3}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^4}d\zeta
これを続けていくと
f^{(n)}(z) = \frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}}d\zeta
になることが予想できる.


ここで問題となるのが,

  • 任意のnについてfzで連続であること
  • 微分結果がこの形になること

の2つが挙げられる.それを確認してこの記事を終わりとする.

まず1回目の微分から

これは数学的帰納法で示す.

最初に元の関数f(z)について
f(z) - f(z_0) = \frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{\zeta - z}d\zeta - \frac{1}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{\zeta - z_0}d\zeta
を計算し
f(z) - f(z_0) = \frac{z-z_0}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)(\zeta - z_0)}d\zeta
と変形する.

ここで積分経路Cを閉曲線内部に入る\rhoを中心とする半径Rの円に変形し,Cと改めておく.
そしてz_0を中心とする円を半径Rの円の内部に入れ,半径をrとする.
するとz_0と半径Rの円周上の点\zetaの距離は|\zeta - z_0| > rになるので\frac{1}{|\zeta - z_0|} < \frac{1}{r}
次にzz_0に近づけるため
|z-z_0| < \frac{r}{2}
としても差し障り無く,\zetazの距離も
\frac{1}{|\zeta - z|} > \frac{r}{2}
としても差し障り無い.

また経路C上の|f(z)|の最大値をMとすると
|f(z) - f(z_0)| = \left|\frac{z-z_0}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)(\zeta - z_0)}d\zeta\right|
になり,おなじみの大小比較
\left|\frac{z-z_0}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)(\zeta - z_0)}d\zeta\right| \leq |z-z_0|\frac{1}{|2\pi i|}\int_C\left|\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)(\zeta - z_0)}\right||d\zeta|
をする.
すると
|z-z_0|\frac{1}{|2\pi i|}\int_C\left|\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)(\zeta - z_0)}\right||d\zeta| \leq |z - z_0|\frac{1}{2\pi}\frac{2M}{r^2}\int_C|d\zeta| = |z-z_0|\frac{2M}{r^2}R
と変形ができる.
ここでRrも閉路内部の円なので有限の大きさなので,
\lim_{z\to z_0}|f(z) - f(z_0)| < \lim_{z\to z_0}|z-z_0|\frac{2M}{r^2}R = 0
が成立し,まずは連続であることが示せた.

また,
f(z) - f(z_0) = \frac{z-z_0}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)(\zeta - z_0)}d\zeta
を変形すると
\frac{f(z) - f(z_0)}{z-z_0} = \frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)(\zeta - z_0)}d\zeta
になるため,z\to z_0の極限をとると
f'(z_0) = \frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)}{(\zeta - z_0)^2}d\zeta
が得られる.


n階微分について

次にn微分の場合成立する
f^{(n)}(z) = \frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}}d\zeta
として,n+1微分で成立するかを確認する.

先と同様に
f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0) = \frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}}d\zeta - \frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z_0)^{n+1}}d\zeta
と差をとり
f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0) = \frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}(\zeta - z_0)^{n+1}}\left((\zeta - z_0)^{n+1} - (\zeta - z)^{n+1}\right)d\zeta
と通分をして計算をする.

ここでキモになるのは
a^n - b^n = (a-b)(a^{n-1} + a^{n-2}b + a^{n-3}b^2 + \cdots + b^{n-1})
という因数分解で,これを利用すると
f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0) = \frac{n!}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)(z-z_0)\sum_{k=0}^{n}\left((\zeta - z_0)^{n-k}(\zeta - z)^{k}\right)}{(\zeta - z)^{n+1}(\zeta - z_0)^{n+1}}d\zeta
と変形ができる.

ここで半径Rの円より一回り大きい半径R_2の円でR全体を囲うと
|\zeta - z_0| < |\zeta| + |z_0| \leq 2R_2
|\zeta - z| < |\zeta| + |z| \leq 2R_2
になる.

そうすると
|f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0)| = \left|\frac{n!}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)(z-z_0)\sum_{k=0}^{n}\left((\zeta - z_0)^{n-k}(\zeta - z)^{k}\right)}{(\zeta - z)^{n+1}(\zeta - z_0)^{n+1}}d\zeta\right|
になり,三角不等式で
|f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0)| \leq |z-z_0|\left|\frac{n!}{2\pi i}\right|\int_C\frac{|f(\zeta)|\sum_{k=0}^n|\zeta - z_0|^{n-k}|\zeta - z|^k}{|\zeta - z|^{n+1}|\zeta - z_0|^{n+1}}|d\zeta|
あとは先の|\zeta - z_0| < |\zeta| + |z_0| \leq 2R_2|\zeta - z| < |\zeta| + |z| \leq 2R_2で置換を行うと
|f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0)| \leq |z-z_0|\frac{n!}{2\pi}\frac{1}{r^{n+1}}\left(\frac{2}{r}\right)^{n+1}M(n+1)(2R_2)^n(2\pi R)
になり,右辺は|z-z_0|以外の部分はせいぜい有限なので,
\lim_{z\to z_0}|f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0)| \leq \lim_{z\to z_0}|z-z_0|\frac{n!}{2\pi}\frac{1}{r^{n+1}}\left(\frac{2}{r}\right)^{n+1}M(n+1)(2R_2)^n(2\pi R) = 0
になるため連続であることが示せ,次に

\lim_{z\to z_0}\frac{f^{(n)}(z) - f^{(n)}(z_0)}{z - z_0} = \lim_{z\to z_0}\frac{n!}{2\pi i}\int_C \frac{f(\zeta)\sum_{k=0}^{n}\left((\zeta - z_0)^{n-k}(\zeta - z)^{k}\right)}{(\zeta - z)^{n+1}(\zeta - z_0)^{n+1}}d\zeta
の極限を取ると
f^{(n+1)}(z) = \frac{(n+1)!}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+2}}d\zeta
が得られ,これで

f^{(n)}(z) = \frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(\zeta)}{(\zeta - z)^{n+1}}d\zeta

が示せた.


参考文献

複素解析 (東京大学出版会
数理科学のための複素関数論 (サイエンス社
複素解析 (現代数学社
プリンストン解析学講義 複素解析 (日本評論社
道具としての複素関数 (日本実業出版社