音楽室と化学室と美術室とPC室の融合部屋 所謂自由室

趣味と気分で適当に色々やります.なんかあるとたまに更新します.

モジュラと保型関数についての簡単なメモ

個人的にわりかし謎だったモジュラと保型形式について調べました.

簡単なまとめ

2つの一次分数変換f(z) = \frac{az+b}{cz+d}g(z) = \frac{\alpha z + \beta}{\gamma z + \delta}の合成
g(f(z))\frac{\alpha\frac{az+b}{cz+d} + \beta}{\gamma\frac{az+b}{cz+d} + \delta} = \frac{(a\alpha + c\beta)z +(b\alpha + d\beta)}{(a\gamma + c\delta)z + (b\gamma + d\delta)}

2つの行列\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
\alpha & \beta \\
\gamma & \delta \\
\end{pmatrix}の積
\begin{pmatrix}
\alpha & \beta \\
\gamma & \delta \\
\end{pmatrix}\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d \\
\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}
a\alpha + c\beta & b\alpha + d\beta \\
a\gamma + c\delta & b\gamma + d\delta \\
\end{pmatrix}
は対応している.
要素が整数で行列式が1(つまり逆行列を持つ)の行列の集合を\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})と表記することにする.
適当なg\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})S=\begin{pmatrix}
1 & 1 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix}T=\begin{pmatrix}
0 & -1 \\
1 & 0 \\
\end{pmatrix}の2つを組み合わせた積で表現できることがわかっている.
つまりh(z)=\frac{az + b}{cz+d}T(z) = z+1S(z) = -\frac{1}{z}の組み合わせた合成で表現ができる.
これは行列が群(アーベル群ではない)になっているので,この一次分数変換の合成も群になる.
この群をモジュラー群という.

この変換を使えば最低限の領域で上半平面全体を表現できる.この最低限の領域を基本領域と言い,
\mathbb{H}-\frac{1}{2}\leq\Re{z}\leq 0, |z|\geq1もしくは0<\Re{z}\leq \frac{1}{2}, |z|>1
の領域になる.
境界全体を基本領域とするか,しないかは書籍による.
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それはそれとしてf\left(z+1\right) = f(z)f\left(-\frac{1}{z}\right) = z^kf(z)で表現ができるなら
\left(d\left(\frac{az+b}{cz+d}\right)\right)^kf\left(\frac{az+b}{cz+d}\right) = (dz)^kf(z)
という変換に対応するので
f\left(z+1\right) = f(z)f\left(-\frac{1}{z}\right) = z^kf(z)の組み合わせでf\left(\frac{az+b}{cz+d}\right) = (cz+d)^kf(z)に変換ができる.
これを重さ(ウェイトとも言う)kの保型形式というらしい.




前提

集合\mathbb{K}を要素とするn×n正方行列をM_n(\mathbb{K})とする.
(例えば実数を要素とするn×n正方行列はM_n(\mathbb{R})という表記になる.)
群の積は単位元Iが存在し,結合法則も成り立つが,逆元の存在は保証されない.
そこで\mathrm{GL}_n(\mathbb{K}) = \{ g \in M_n(\mathbb{K}) | \det{g} \neq 0\}と限定すると,\mathrm{GL}_n(\mathbb{K})は逆元を持つことが保証され群になる.
これを一般線型群という.
今回は2×2正方行列の一般線形群の中の部分群
\mathrm{SL}_n(\mathbb{K}) = \{\gamma \in \mathrm{GL}_n(\mathbb{K}) | \det \gamma = 1\}
(特殊線型群)について考える.
また,今回はA-Aは同じものとして考える.

行列と分数変換

ここでA-Aを同じものとして考える理由についても軽く説明する.

z\longmapsto \frac{az + b}{cz+d}という変換は,例えば
z\longmapsto \frac{az + b}{cz + d}の変換をz\longmapsto \frac{ez + f}{gz + h}で変換を行うと
z\longmapsto \frac{(ae + cf)z + (be + df)}{(ag + ch)z + (bg + dh)}
になり,これは

\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
e & f \\
g & h \\
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
ae+cf & be+df \\
ag+ch & bg+dh \\
\end{pmatrix}
のように行列での積に対応する.
ここで\frac{az + b}{cz + d} = \frac{-az - b}{-cz - d}であり,A-Aを同一視することの合理性がわかる.
記述の簡単化のために\gamma = \begin{pmatrix}
a & b \\
c & d \\
\end{pmatrix}と置いた時\gamma z = \frac{az + b}{cz + d}と表現する場合もある.

ちなみにここでad-bc=1という制限を設けることにより,既約分数という条件が加わる.
以上の議論により,一次分数変換の合成を積と定義すると単位元と逆元,結合則を持つので群と考えることができる.
この群をモジュラー群という.

SL2の生成元

\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})の要素はS = \begin{pmatrix}
0 & -1 \\
1 & 0 \\
\end{pmatrix}T = \begin{pmatrix}
1 & 1 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix}の2つの構成で生成される.

つまりどんなad-bc = 1となる\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d \\
\end{pmatrix}STの積で生成される.

例えばT^{-1} = \begin{pmatrix}
1 & -1 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix} = STSTSで生成される.

この生成元についての証明はユークリッドの互除法を用いて示すことができるらしい.
lupus.is.kochi-u.ac.jp

基本領域

以降説明の簡単化のためにg=\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d \\
\end{pmatrix}\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})を用いた変換z_2 = \frac{az_1+b}{cz_1+d}が存在するとき,同値という.
言ってしまえばz\longmapsto -\frac{1}{z}z\longmapsto z+1のみで変換を繰り返すことでz_1からz_2に到達することが可能なことを同値ということになる.
ここで新たに基本領域というものを定義する.
基本領域は上半平面\mathbb{H}と同値関係であり,基本領域内部の2点は同値関係ではない領域と定義する.
この基本領域は\mathbb{H}-\frac{1}{2}\leq\Re{z}\leq 0, |z|\geq1もしくは0<\Re{z}\leq \frac{1}{2}, |z|>1という領域になる.
(基本的には基本領域の2点が同値でないという条件は領域内部とし,境界線上の2点は同値関係であることを考慮しない場合が多い.しかし今回はこの領域で説明を行う)
この記事では基本領域を\mathcal{F}と表現する.
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つまり,上半平面\mathbb{H}上の点z_0について,z\longmapsto -\frac{1}{z}z\longmapsto z+1の変換を繰り返し行うと,対応する点が基本領域内に1点存在する.
更に言えば上記の\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})の生成元の話と合わせると,\mathbb{H}上の点z_0に対応する点z_1が基本領域内のどこかの点に存在し,z\longmapsto \frac{az + b}{cz_+d}という変換が存在する.
つまりz_0\in\mathbb{H}に対し適切なz_1\in \mathcal{F}\gamma \in \mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})が存在し,z_0 = \frac{az_1 + b}{cz_1 + d}になる.

tsujimotterさんが基本領域ゲームを作っていてわりかし理解の助けになったのでおすすめ
tsujimotter.hatenablog.com


これを示すには

  1. 上半平面から\mathcal{F}上の点への変換が存在する
  2. \mathcal{F}内の2点z_0,\ z_1が変換によって同じ点にならない

の2つを示す必要がある.

上半平面から基本領域上の点への変換が存在すること

最初に\mathbb{H}上の点zを,横方向に平行移動するTT^{-1} = STSTSを用いて-\frac{1}{2}\leq \Re{z} < \frac{1}{2}に移動させる

|z|>1の場合

基本領域上の点へ変換することができている.

|z|≦1の場合,

前提として,\Im{\frac{az + b}{cz + d}} = \frac{\Im{z}}{|cz + d|^2}である.
この分母の|cz + d|^2に焦点をあてて考えるが,単位円内部に1zを単位とする格子が存在し,|cz + d|^2が最小値となるcdの組み合わせが存在する.
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つまり\Im{\gamma z} = \frac{\Im{z}}{|cz + d|^2}には最大値が存在し,この最大値はTT^{-1}で変換すると基本領域内部の点になる.
仮に基本領域内部の点にならない場合,\gamma zに平行移動を何度か行っているため|T^{k}\gamma z|<1であり,
\Im \left(-\frac{1}{T^k\gamma z}\right) = \frac{\Im z}{|\gamma z|^2} > \Im \gamma z
になり,更に最大値を見つけることができたので不適となる.

基本領域に変換で対応し合う2点が存在しないこと

基本領域内の2点z_1z_2が同値関係であるとし,\Im{z_2}\geq\Im{z_1}とする.大小関係が異なればz_1z_2の入れ替えを行い,変換を逆元としても問題ない.
すると
\Im{z_2} = \frac{\Im{z_1}}{|cz_1 + d|^2} \geq \Im{z_1}
という対応関係が存在し,|cz_1 + d|\leq 1という条件が得られる.
この時|cz_1 + d| = |(c\Re{z_1} + d) + c\Im{z_1}|\geq |c|\Im{z_1}であり,更に基本領域内の虚部が最小となる点を考え|c|\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}\leq |c|\Im{z_1}になる.
まとめると
|c|\frac{\sqrt{3}}{2}\leq |c|\Im{z_1} \leq |(c\Re{z_1} + d) + ic\Im{z_1}| = |cz_1 + d| \leq 1
になり,|c|\leq 1という条件が得られ,z_1は基本領域内部なので|\Re{z_1}|\leq\frac{1}{2}に注意すると
|c\Re{z_1} + d| \leq |(c\Re{z_1} + d) + ic\Im{z_1}| = |cz_1 + d| \leq 1
であり,d\in\mathbb{Z}に注意をすると|d|\leq 1という条件も得られる.
ここでいくらか場合分けを考える必要がある.

c=0,d=±1の場合

g = \begin{pmatrix}
a & b \\
0 & \pm 1 \\
\end{pmatrix}
の場合,\det{g} = 1に注意をするとa = \pm 1b = somethingなのでg = \begin{pmatrix}
\pm 1 & b \\
0 & \pm 1 \\
\end{pmatrix}であり,gz = z \pm bという平行移動になる.
この場合基本領域内部の2点の変換はz\longmapsto zに限られる.
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c=±1,d=±1の場合

この場合は|cz_1 + d| = |z_1 + d|\leq 1より,d=0,\ |z_1| = 1
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もしくは
c=\pm 1のときd=\pm 1,\ z_1 = \frac{-1+ i\sqrt{3}}{2}
c=\pm 1のときd=\mp 1,\ z_1 = \frac{1+ i\sqrt{3}}{2}になる.
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固定群

これまでの議論により,「変換してもその点から動かない点」がいくつかあることがわかる.

  • z=i-\frac{1}{z}のとき,i\longmapsto iになる.
  • z=\frac{-1+ i\sqrt{3}}{2}-\frac{1}{z+1}のとき,\frac{-1+ i\sqrt{3}}{2}\longmapsto \frac{-1+ i\sqrt{3}}{2}になる.
  • z=\frac{1+ i\sqrt{3}}{2}1-\frac{1}{z}のとき,\frac{1+ i\sqrt{3}}{2}\longmapsto \frac{1+ i\sqrt{3}}{2}になる.

つまり,S,Tを用いて

  • z=iの固定群は\{S,\ I\}
  • z=\frac{-1+ i\sqrt{3}}{2}の固定群は\{ST,\ STST,\ I\}
  • z=\frac{1+ i\sqrt{3}}{2}の固定群は\{TS,\ TSTS,\ I\}

になる.

モジュラ関数

今度は
\left(\frac{d\left(\frac{az+b}{cz+d}\right)}{dz}\right)^kf\left(\frac{az+b}{cz+d}\right) = f(z)
を満たす関数fについて考える.
コレ自体は
\left(d\left(\frac{az+b}{cz+d}\right)\right)^kf\left(\frac{az+b}{cz+d}\right) = (dz)^kf(z)
の変換を行うことによりz\frac{az+b}{cz+d}の関係性が確認できる.

ここでad - bc = 1に注意すると\left(\frac{az+b}{cz+d}\right)' = \frac{1}{(cz + d)^2}なので
f\left(\frac{az+b}{cz+d}\right) = (cz+d)^{2k}f(z)
という関係が得られることがわかる.


逆に
f(z+1) = f(z),\ f\left(-\frac{1}{z}\right) = z^k f(z)
を満たす場合について考える.
この2つは
T:\ f(z+1) = f(z)
S:\ f\left(-\frac{1}{z}\right) = z^k f(z)
に対応しており,これまでの議論によりS,Tから任意の\gamma\in\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})を生成できるので,関数の合成を繰り返すことで
f\left(\frac{az+b}{cz+d}\right)の生成を実現でき,
f\left(\frac{az+b}{cz+d}\right) = (cz+d)^{k}f(z)
への変換が存在することがわかる.

ここでf\left(\frac{az+b}{cz+d}\right) = (cz+d)^{k}f(z)について,kを重み,ウェイトと言う.

f(z+1) = f(z)の条件で周期1の周期関数であるためフーリエ級数展開が存在し,
f(z) = \sum_{n\in\mathbb{Z}}a_n e^{2\pi iz}
になる.

ここでn<0に対しa_n\neq 0の項が有限個の時保型関数
n<0全てに対しa_n = 0の場合保型形式
n\geq 0全てに対しa_n=0の場合カプス形式というらしい.