モジュラと保型関数についての簡単なメモ
個人的にわりかし謎だったモジュラと保型形式について調べました.
簡単なまとめ
2つの一次分数変換との合成
と
2つの行列の積
は対応している.
要素が整数で行列式が1(つまり逆行列を持つ)の行列の集合をと表記することにする.
適当なはとの2つを組み合わせた積で表現できることがわかっている.
つまりもとの組み合わせた合成で表現ができる.
これは行列が群(アーベル群ではない)になっているので,この一次分数変換の合成も群になる.
この群をモジュラー群という.
この変換を使えば最低限の領域で上半平面全体を表現できる.この最低限の領域を基本領域と言い,
上もしくは
の領域になる.
境界全体を基本領域とするか,しないかは書籍による.
それはそれとしてとで表現ができるなら
という変換に対応するので
との組み合わせでに変換ができる.
これを重さ(ウェイトとも言う)の保型形式というらしい.
前提
集合を要素とするn×n正方行列をとする.
(例えば実数を要素とするn×n正方行列はという表記になる.)
群の積は単位元が存在し,結合法則も成り立つが,逆元の存在は保証されない.
そこでと限定すると,は逆元を持つことが保証され群になる.
これを一般線型群という.
今回は2×2正方行列の一般線形群の中の部分群
(特殊線型群)について考える.
また,今回はとは同じものとして考える.
行列と分数変換
ここでとを同じものとして考える理由についても軽く説明する.
という変換は,例えば
の変換をで変換を行うと
になり,これは
のように行列での積に対応する.
ここでであり,とを同一視することの合理性がわかる.
記述の簡単化のためにと置いた時と表現する場合もある.
ちなみにここでという制限を設けることにより,既約分数という条件が加わる.
以上の議論により,一次分数変換の合成を積と定義すると単位元と逆元,結合則を持つので群と考えることができる.
この群をモジュラー群という.
SL2の生成元
の要素はとの2つの構成で生成される.
つまりどんなとなるもとの積で生成される.
例えばで生成される.
この生成元についての証明はユークリッドの互除法を用いて示すことができるらしい.
lupus.is.kochi-u.ac.jp
基本領域
以降説明の簡単化のためにを用いた変換が存在するとき,同値という.
言ってしまえばとのみで変換を繰り返すことでからに到達することが可能なことを同値ということになる.
ここで新たに基本領域というものを定義する.
基本領域は上半平面と同値関係であり,基本領域内部の2点は同値関係ではない領域と定義する.
この基本領域は上もしくはという領域になる.
(基本的には基本領域の2点が同値でないという条件は領域内部とし,境界線上の2点は同値関係であることを考慮しない場合が多い.しかし今回はこの領域で説明を行う)
この記事では基本領域をと表現する.
つまり,上半平面上の点について,との変換を繰り返し行うと,対応する点が基本領域内に1点存在する.
更に言えば上記のの生成元の話と合わせると,上の点に対応する点が基本領域内のどこかの点に存在し,という変換が存在する.
つまりに対し適切なとが存在し,になる.
tsujimotterさんが基本領域ゲームを作っていてわりかし理解の助けになったのでおすすめ
tsujimotter.hatenablog.com
これを示すには
- 上半平面から上の点への変換が存在する
- 内の2点が変換によって同じ点にならない
の2つを示す必要がある.
上半平面から基本領域上の点への変換が存在すること
最初に上の点を,横方向に平行移動するとを用いてに移動させる
|z|>1の場合
基本領域上の点へ変換することができている.
|z|≦1の場合,
前提として,である.
この分母のに焦点をあてて考えるが,単位円内部にとを単位とする格子が存在し,が最小値となるとの組み合わせが存在する.
つまりには最大値が存在し,この最大値はとで変換すると基本領域内部の点になる.
仮に基本領域内部の点にならない場合,に平行移動を何度か行っているためであり,
になり,更に最大値を見つけることができたので不適となる.
基本領域に変換で対応し合う2点が存在しないこと
基本領域内の2点とが同値関係であるとし,とする.大小関係が異なればとの入れ替えを行い,変換を逆元としても問題ない.
すると
という対応関係が存在し,という条件が得られる.
この時であり,更に基本領域内の虚部が最小となる点を考えになる.
まとめると
になり,という条件が得られ,は基本領域内部なのでに注意すると
であり,に注意をするとという条件も得られる.
ここでいくらか場合分けを考える必要がある.
c=0,d=±1の場合
の場合,に注意をすると,なのでであり,という平行移動になる.
この場合基本領域内部の2点の変換はに限られる.
c=±1,d=±1の場合
この場合はより,
もしくは
のときか
のときになる.
固定群
これまでの議論により,「変換してもその点から動かない点」がいくつかあることがわかる.
- ,のとき,になる.
- ,のとき,になる.
- ,のとき,になる.
つまり,を用いて
- の固定群は
- の固定群は
- の固定群は
になる.