音楽室と化学室と美術室とPC室の融合部屋 所謂自由室

趣味と気分で適当に色々やります.なんかあるとたまに更新します.

円周率の無理性について

こんにちは,ありゅです.
もうそろそろ画像作成して1年くらいになるんじゃないかなと思うので,円周率の無理性についてまとめます.

私が初めて読んだ円周率の無理性の証明についてですが,『数学のかんどころ22 円周率 歴史と数理』
www.amazon.co.jp
という書籍で
"Recurrent Proofs of the Irrationality of Certain Trigonometric Values"Li Zhou and Lubomir Markov
という論文を元に説明してあったものでした.

追記:不等号の向きが逆になっている箇所があったため修正.脱字を修正.

証明の概要

今回の論文の円周率の無理性についての証明の方針ですが,もちろん背理法を使います.

背理法を使うと

  1. 円周率を有理数と仮定する
  2. 円周率が有理数である場合,おかしなことが発生する.
  3. つまり円周率が有理数であることがおかしい

といった流れになります.
ここで問題となるのが2の『円周率が有理数である場合,おかしなことが発生する.』ですが,

\theta \neq 0有理数である場合tan\theta無理数になる

という性質を利用しています.
そうすると
\tan{\frac{\pi}{4}} = 1
であるため,\pi有理数であるのに\tan\theta有理数になっているという仮定に反する結果となります.
さて,ここで更に問題となるのが『\theta有理数である場合tan\theta無理数になる』についてです.
これより以下はこの仮定を示すまでです.

tan(m/n)の無理性について

概要

r有理数のとき
\tan{r}
無理数になるということを示すには背理法を使います.
目標としては整数係数の多項式v(r)u(r)\sin{r}\cos{r}を組み合わせた等式を作ります.
式変形を行って\tan{r}を整数係数の多項式と結び,おかしくなることを導きます.

証明

まずn\geq 0のとき
f_n(x) = \frac{x^n(2r-x)^n}{n!}
について考えます.いきなりこんな式が出てくるなんてかなり意味不明ですね.
この式はもちろん定義上f_n(0) = f_n(2r) = 0になります.
これは後々出てくる積分と組み合わせて考えるので,部分積分のために2階微分まで考えます.

\begin{split}
f_n'(x) &= \frac{1}{n!}(nx^{n-1}(2r-x)^n - nx^n(2r-x)^{n-1})\\
&= \frac{x^{n-1}(2r-x)^{n-1}}{(n-1)!}( (2r-x) - x)\\
&= (2r - 2x)f_{n-1}(x)
\end{split}
が一階微分,二階微分

\begin{split}
f_n' '(x) &= (2r - 2x)'f_{n-1}(x) + (2r-2x)f'_{n-1}(x)\\
&= -2f_{n-1}(x) + (2r-2x)^2f_{n-2}(x))\\
&= -2f_{n-1}(x) + (4r^2-8rx+4x^2)f_{n-2}(x)\\
&= -2f_{n-1}(x) -4x (2r-x)f_{n-2}(x) + 4r^2f_{n-2}(x)\\
&= 4r^2f_{n-2}(x) -4x (2r-x)f_{n-2}(x)  -2f_{n-1}(x)\\
&= 4r^2f_{n-2}(x) -4x (2r-x)\frac{x^{n-2}(2r-x)^{n-2}}{(n-2)!} -2f_{n-1}(x)\\
&= 4r^2f_{n-2}(x) -4(n-1)\frac{x^{n-1}(2r-x)^{n-1}}{(n-1)!} -2f_{n-1}(x)\\
&= 4r^2f_{n-2}(x) -(4n-4)f_{n-1}(x) -2f_{n-1}(x)\\
&= 4r^2f_{n-2}(x) -(4n-2)f_{n-1}(x)
\end{split}
になりますね.

次に
I_n = \int_0^{2r}f_n(x)\sin{x}dx
となる積分を考えます.
最初のn = 0n=1の場合を計算しておくと,

\begin{split}
I_0 &= \int_0^{2r}\sin{x}dx\\
&= [-\cos(x)]_0^{2r}\\
&= 1 - \cos{(2r)}
\end{split}


\begin{split}
I_1 &= \int_0^{2r}f_1(x)\sin{x}dx\\
&= \int_0^{2r}f_1(x)(-\cos{x})'dx\\
&= -[f_1(x)\cos{x}]_0^{2r}+\int_0^{2r}f_1'(x)\cos{x}dx\\
&= \int_0^{2r}(2r-2x)\cos{x}dx\\
&= 2r\int_0^{2r}\cos{x}dx - 2\int_0^{2r}x\cos{x}dx\\
&= 2r[\sin{x}]_0^{2r} - 2\int_0^{2r}x(\sin{x})'dx\\
&= 2r\sin{(2r)} - 2[x\sin{x}]_0^{2r} + 2\int_0^{2r}\sin{x}dx\\
&= 2r\sin{(2r)} - 4r\sin{(2r)} - 2\cos{(2r)} + 2\\
&= 2(1-\cos{(2r)}) - 2r\sin{(2r)}
\end{split}
が得られます.
このI_nは部分積分をすると

\begin{split}
I_n&=\int_0^{2r}f_n(x)(-\cos{x})'dx\\
&=-[f_n(x)\cos{x}]_0^{2r} + \int_0^{2r} f_{n}'(x)\cos{x}dx\\
&=\int_0^{2r} f_{n}'(x)\cos{x}dx
\end{split}
になり,これから更に部分積分を行い

\begin{split}
I_n&=\int_0^{2r} f_{n}'(x)(\sin{x})'dx\\
&=[f_n''(x)\sin(x)]_0^{2r} - \int_0^{2r} f_{n}''(x)\cos{x}dx\\
&=- \int_0^{2r} f_{n}''(x)\cos{x}dx\\
&=- \int_0^{2r}(4r^2f_{n-2}(x) -(4n-2)f_{n-1}(x))\cos{x}dx\\
&=- \int_0^{2r}4r^2f_{n-2}(x)\cos{x}dx + \int_0^{2r}(4n-2)f_{n-1}(x)\cos{x}dx\\
&= (4n-2)I_{n-1}-4r^2I_{n-2}
\end{split}
と漸化式が得られます.
ここで重要なのは,I_{n-1}I_{n-2}両方0にならないと永久に0が続くということはないということ.


I_0(1-\cos{2r})であり,I_1rの1次式に(1-\cos{2r})\sin{2r}が混じっている.
また
I_n= (4n-2)I_{n-1}-4r^2I_{n-2}
は2つ前の式にr^2を乗じたものを足しており,1つ前の式にはrは乗じていない.
つまり,2つのn次式v_n(r)u_n(r)を用いて
I_n = v_n(r)(1-\cos{(2r)}) + u_n(r)\sin{(2r)}
と表現ができることがわかります.

更に両辺を\sin{(2r)}で割ると
\frac{I_n}{\sin{(2r)}} = v_n(r)\frac{1-\cos{(2r)}}{\sin{(2r)}} + u_n(r)
から
\frac{1-\cos{(2r)}}{\sin{(2r)}} = \frac{2\sin^2{(r)}}{2\sin{r}\cos{r}} = \frac{\sin{r}}{\cos{r}} = \tan{r}
なので
\frac{I_n}{\sin{(2r)}} = v_n(r)\tan{r} + u_n(r)
と変形ができますね.

ここでr有理数であり,\tan{r}有理数である場合という仮定をようやく使う.
つまりr = \frac{b}{a}\tan{r} = \frac{d}{c}と置換する.
ここで両辺にca^nを乗じると
\frac{ca^n I_n}{\sin{(2r)}} = ca^nv_n(r)\tan{r} + ca^nu_n(r)
になり,この場合右辺は整数になるので左辺も整数になり,これはどのnについても成立することになります.

ここで左辺について考えてみると,0から2rまでの間のx(2r-x)の最大値Mを用いて

\begin{split}
\left|\frac{ca^n I_n}{\sin{(2r)}}\right| &\leq  \left|\frac{ca^n}{\sin{(2r)}}\right| \cdot \left|I_n\right|\\
&= \left|\frac{ca^n}{\sin{(2r)}}\right| \cdot \left|\int_0^{2r}f_n(x)\sin{x}dx\right|\\
&\leq  \left|\frac{ca^n}{\sin{(2r)}}\right| \cdot \left|2r \frac{M^n}{n!}\right|\\
&=  \left|\frac{2rc}{\sin{(2r)}}\right| \cdot \left|\frac{(aM)^n}{n!}\right|
\end{split}
となり,右辺はn\to \inftyのとき\left|\frac{2rc}{\sin{(2r)}}\right| \cdot \left|\frac{(aM)^n}{n!}\right| \to 0となります.

つまり右辺は整数なので,左辺はあるN以降は0になってしまい,それ以降はI_n = 0が続くため,これまでの議論に反することになります.

つまり,r有理数であるとき\tan{r}無理数であり,仮に\pi有理数だとすると
\tan{\frac{\pi}{4}} = 1
であることから,この場合は右辺も有理数になってしまっているため,円周率は無理数ということが示せました.